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新しい糖尿病治療薬SGLT-2阻害剤の競争が激化②~国内市場は2000億円超

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糖尿病の薬物治療に新たな選択肢をもたらすナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT)-2阻害剤が続々と国内市場に登場、“厳しい競争”が始まった(表)。

 

表_ナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT)-2の承認状況

 

国内初のSGLT-2阻害剤はアステラス製薬の「スーグラ」

ファースト・イン・クラスの座を勝ち取ったスーグラは「当初想定通り順調にスタートしている」(アステラス製薬 畑中好彦社長、5月12日の2013年度決算説明会)ことが伝わっており、医療現場の関心の高さをうかがわせる。各社が厚生労働省に提出している資料のピーク時売上げを合算すると2000億円を突破すると予想される。激戦が必至の中、各社はどんな販売戦略を立てるのだろうか。

SGLT-2阻害剤は腎臓でのグルコース再吸収を担うSGLT-2を選択的に阻害することによって血液中の過剰な糖を尿中に排出する新しい作用機序の薬剤だ。インスリンの分泌や作用に依存しないという点ではα-グルコシダーゼと同じカテゴリーに入る。各社は開発競争でしのぎを削ってきたが、4月17日にスーグラが先行して発売された。5月23日にはフォシーガ、ルセフィ、デベルザ/アプルウェイがこれに続いた。米国で初めに承認を取得したカナグルは4月25日の医薬品第一部会を通過しており、順調にいけば6月下旬ごろの承認、8月下旬ごろの薬価収載が予想される。

 

 

適する患者は、罹患期間が短く肥満傾向

処方についてはほぼすべての糖尿病治療薬と併用でき、HbA1cの低下作用と内臓脂肪を含めた体重減少効果が専門医から高く評価されている。現在の第一選択薬であるDPP-4阻害薬やビグアナイド薬をベースにした、第二・第三選択薬として当面は処方を拡大すると見られる。

しかし、日本糖尿病学会の門脇孝理事長(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)は、SGLT-2阻害剤の投与に適した2型糖尿病の対象として、「肥満傾向」「既存経口血糖降下薬で効果不十分」「罹患期間が比較的短い」といった患者像を挙げる。血糖や脂肪だけでなく、血圧や脂質についても低下傾向が認められ、肥満に伴うメタボリックシンドロームの様々なリスクファクターを改善させる可能性があること、また、既存の経口血糖降下薬とは違う作用機序であることから上乗せ効果を期待できるからだ。さらに、脂肪分解において肝臓でケトン体が産生されることから、罹患期間が長い患者では、ケトアシドーシスを起こしやすい患者が含まれている可能性が高く、ある程度インスリン分泌機能が保たれている患者の方が適しているとの見方を示している。つまり、近い将来には肥満傾向の若い患者に対しては第一選択薬に選ばれると期待されるところである。

また、門脇理事長は、現在、合併症予防の目標値であるHbA1Cが7.0%を超える患者が半数いることから、現行の糖尿病治療は、まだ不十分との認識を示した。そのうえで「7.0%を割る、合併症を抑制できるような治療に向けた有用な薬剤」とSGLT-2阻害剤の併用を評価している。

 

 

対象患者数は300万人

対象となる患者数については、2型糖尿病患者の平均ボディマス指数(BMI)は年次的に増加傾向にあり、2012年は24.90であった。BMI25以上を肥満とすると約半数が肥満と考えられること、また、筋肉を分解する懸念もあることからサルコペニアのリスクがある高齢者(75歳以上)を対象の除外とすると、75歳以上は2型糖尿病患者の2から3割を占めることから、糖尿病患者の30から35%が投与を検討する対象になる。ちなみに、2012年の糖尿病罹患者(HbA1c=6.5%以上)は950万人、糖尿病予備軍(6.0%以上6.5%未満)は1100万人(厚生労働省2012年国民健康栄養調査)とされており、対象患者数は概算で300万人と推定される。

 

 

各社の戦略は如何に

1年間で同一カテゴリーに6成分が上市されるという、かつてない激戦となるSGLT-2阻害剤の市場。有効性や安全性ではほとんど差がないといわれているだけに、販売に当たっては、かなりのパワーセールスが繰り広げられることが予想される。販売体制を見ると、1物2名称で売るデベルザ/アプルウェイを除き、すべてがコ・プロモーションもしくはコ・マーケティングで臨む。武田薬品工業以外のMSD、ノバルティスファーマ、日本ベーリンガーインゲルハイム、小野薬品工業といったDPP-4阻害薬の売り上げ上位企業が参戦している。企業数は13社、単純にMR数を合計すると2万人近くになる。

先行したスーグラが有利な立場にあるのは疑いのないところ。全糖尿病治療薬のなかで講演会の開催頻度がトップとなるなど、猛烈なスタートダッシュをかけている。キーオピニオンリーダー(KOL)のスケジュールも早々に押さえたとも聞こえてくる。

 

アステラスとMSDのMR数を単純合計すると約4800名に上り、6成分の中で最大。6成分の有効性や安全性にほとんど差はないとの評価が定着すれば、先行有利の展開を享受できるだろう。コ・プロモーション相手のMSDはDPP-4阻害薬国内処方数トップのジャヌビアを擁するだけに、糖尿病専門医とのパイプは太い。ただし、MSD側としては、ジャヌビアの帳合を落としては元も子もないことから、病院向けにはジャヌビアのアドオン戦略は取っていない模様。それでも順調なスタートを切ったのは、他の薬剤へのアドオン、アステラス帳合での納品に拠るところと推測される。

 

スーグラに先行を許した各社にとっては、いかに差別化できるかが鍵となる。ブリストル・マイヤーズが承認申請したフォシーガは、申請日がスーグラと2日差しかなかった。2012年12月欧州承認取得、2014年1月米国承認取得と、世界で最も早く発売した実績があったものの、結果としてスーグラに単独先行承認を許してしまった。アストラゼネカのガブリエル・ベルチ社長は、世界約40ヵ国での使用実績を前面に押し出したプロモーションを展開する考えを示した。DPP-4阻害薬グラクティブで実績を積んだ小野薬品との提携で万全の追撃体制を取り、スーグラに引けを取らないピーク時売上げ予想500億円を立てた。アストラゼネカの担当MR1600名と小野薬品の全MRとの共同販促でおよそ2700名の営業体制となる。「10mgでの世界165本の臨床試験と実臨床と合せて4年間の臨床データ、いつでも服用できる点で差別化を図る」(小野薬品 藤吉信治取締役営業本部長)方針。また、性器および尿路感染症の副作用症例は、なかなか担当医に言いづらく報告が上がってこないことも懸念されることから、「感染症事例を吸い上げられるようなプロモーション資材を医療現場に提供する」(アストラゼネカ 野上麻里営業本部長)ことも準備している。

ルセフィを共同販売するノバルティスは、一連のディオバン問題が長引けば、いくら循環器領域に強いといえども楽観できる状況にない。アプルウェイを販売するサノフィは糖尿病領域で確固たる地位を築いているのに対し、デベルザを販売する興和はDPP-4阻害薬スイニーで糖尿病領域に初参入したが、スイニー自体もまだ浸透しておらず、販売体制に不安を残す。

昨年4月に米国で発売第1号となったカナグル(米国製品名:インヴォカナ)は、第2グループにも入れなかった。米国での販売実績を背景にした豊富な実臨床データがあり、本命と目されていただけに開発の遅れは痛い。

市販後臨床研究やKOL育成で遅れを取るほか、何よりSGLT-2阻害剤全体に長期投与における安全性・有効性を検討する製造販売後調査(各3000例)が課されており、早々に終えた方が圧倒的に有利だからだ。田辺三菱製薬の発表によると、米国では内分泌医師のブランド薬の処方数(2型糖尿病薬の追加、切り替え処方時)でトップ。土屋裕弘社長は2013年度第2四半期決算の記者会見で、ブロックバスターへの成長に自信を示すとともに、日本でもトップグループで承認されることを期待していた。それが先行集団から2カ月の申請遅れで、DPP-4阻害薬テネリアと同じ5番手に甘んじるとは予想外だったろう。

 

土屋社長は5月9日の2013年度通期決算説明会で「テネリアとカナグルの合剤開発に取り組む」ことを表明。それに続く5月22日から開催された第57回日本糖尿病学会年次学術集会では、カナグルに関して「DPP-4阻害薬の併用による血漿活性型GLP-1上昇作用」「降圧作用に関する検討」など10演題をそろえ、差別化戦略の一端が示された。

田辺三菱と第一三共のMR数は単純合計で約4200名、スーグラに続く規模となる。DPP-4阻害薬との併用に最適という位置付けを確立できれば、挽回も不可能ではない。

2014年内にも6剤が上市されるSGLT-2阻害剤。DPP-4阻害剤と比べ6剤間の違いは少ないというのが、専門家の見方である。製薬会社からはSGLT2に対する選択性が違うとの声もあるが、あまり臨床的な効果に違いはない。したがって、これまでの治験の成績が世界的にどれだけ蓄積されているかが、最終的な売上げに関与してくると見られる。加えて、今後、実施される世界および国内の臨床研究から新たなエビデンスがどれだけ出てくるかにかかっていると言えよう。

 

 

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