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大塚製薬と武田薬品 申請中の抗潰瘍剤TAK-438で国内共同プロモーション契約を締結

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武田薬品工業は3月27日、日本において申請中のフマル酸ボノプラザン(TAK-438)の販売に関して大塚製薬と共同プロモーション契約を締結したことを発表した。ボノプラザンは武田薬品が自社創製した新しい作用機序を持つ胃酸分泌抑制剤である。

 

プロトンポンプ阻害剤の課題

胃酸分泌の最終段階を担うのは胃壁にあるプロトンポンプと呼ばれる酵素H+,K+-ATPaseである。この働きを阻害する薬剤としてプロトンポンプインヒビター(PPI)が、消化性潰瘍の治療薬として臨床の場で汎用されている。国内ではオメプラゾール(オメプラール、オメプラゾン)、ランソプラゾール(タケプロン、武田薬品工業ラベプラゾールナトリウム(パリエットエーザイ)、エソメプラゾール(ネキシウム、アストラゼネカ第一三共)が処方されている。

 

PPIは主に肝臓で代謝される。代謝には、主に肝薬物代謝酵素チトクロームP450の2C19(CYP2C19)と3A4(CYP3A4)が関与している。CYP2C19には遺伝的多型性があり、PPIの効果に個人差が生じることが知られている。CYP2C19の遺伝子多型は、rapid metabolizer(RM), intermediate metabolizer(IM), poor metabolizer(PM)に分けられ、RMが35%、IMが49%、PMが16%であったとの報告がある(n=300)。RMではCYP2C19の酵素活性が高いためにPPIは速やかに代謝され、血中濃度は低くなり、逆にPMでは高い血中濃度が遷延する。白人に比べ日本人では、この遺伝的に決定されたCYP2C19活性の個人差が大きく、PPIの血中動態、薬効に有意な影響を及ぼしている。

 

オメプラゾールのS体の光学異性体であるエソメプラゾールはCYP2C19による代謝の影響を受けにくいため、オメプラゾールと比較してCYP2C19遺伝子多型による個人差が小さくなり、安定した薬物動態と臨床効果が期待されることが、処方数の増加の一因と推測することができる。PPIのCYP2C19とCYP3A4を介した代謝は、薬物相互作用にも影響を及ぼす。薬物相互作用の多くは薬物代謝阻害であり、クロピドグレルを例として同一の薬物代謝酵素を有する薬剤を併用した場合、代謝酵素の関与度を把握する必要がある。

 

さらに、PPI抵抗性胃食道逆流症(GERD)が問題となっている。常用量PPI1日1回投与で治療に難渋するPPI抵抗性GERDは、25%~40%存在すると報告されている。特に非びらん性胃食道逆流症は、逆流性食道炎に比べてPPIの効果が低いことも知られている。実際、国内のGERD患者の52%に睡眠障害を合併し、さらにQOLの低下も報告されている。一般的にPPIの酸分泌抑制力が夜間は日中に比べて減弱する。PPIの1日2回投与にもかかわらず、夜間に1時間以上連続して胃内pHが4以下になる、すなわち、夜間に酸分泌がコントロールできないことが、PPI抵抗性GERDの原因の1つに加えられている。言い換えれば、夜間症状に合併する睡眠障害などの改善に有効な薬剤であれば既存薬と差別化できるということになる。

 

 

新しい作用機序のボノプラザン

ボノプラザンは、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)と呼ばれる新規の作用機序を持つ。プロトンポンプであるH+,K+-ATPaseに対してカリウムイオンと競合することでプロトンの分泌を抑制する。したがって、PPI以上の酸分泌抑制効果が期待できる。さらに、ボノプラザンの代謝には遺伝子多型のあるCYP2C19の関与が少ないことおよび24時間持続した効果を示す(図)。前述したようにPPIの治療で十分な治療効果が得られない症例にも有効であると期待される。国内では今年2月28日、GERDの1つの逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助などを対象にした国内フェーズⅢ試験の結果に基づき申請した。

 

 

【図】ボノプラザンとランソプラゾールのヒスタミンで惹起した酸分泌の抑制効果(イヌ)
【図】ボノプラザンとランソプラゾールのヒスタミンで惹起した酸分泌の抑制効果(イヌ)

 

 

両社の目論見が一致

ヘリコバクター・ピロリ診断薬のユービットを有する大塚製薬は、防御因子増強剤のトップシェア製品であるレバミピド(ムコスタ)を、武田薬品は国内のPPI市場でトップの座を長年守りつづけたランソプラゾールがともに苦戦を強いられている。2012年度の売上げはレバミピド205億円(前年同期比21.2%減)、ランソプラゾール691億円(同9.7%減)となった。薬価改定と後発品の影響である。

 

唯一PPI市場で成長しているのがエソメプラゾールだ。2012年度は10倍増の216億円、2013年度も570億円を見込む。海外トップ製品の実績を国内でも示した格好だ。2011年9月に発売になったエソメプラゾールの推定ピーク時売上げは527億円と、申請者から提出されていた計画よりも早い3年間での達成となる。この背景には、販売を第一三共が担当し、製造販売元のアストラゼネカと共同で3500人のMRがプロモーション活動を展開したことがある。言い換えると、差別化できる製品であれば、プロモーションの力によって成長できる領域であるということだ。特に、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助と広い適応症を同時に申請したことは、新薬を投入する際には、大きな武器となるとみている。その契約内容の概略は、以下のとおりである。

 

  • 契約一時金は200億円の他、武田薬品は承認時のマイルストーン契約金を大塚製薬から受け取る
  • 大塚製薬は売上げに対する一定の対価を武田薬品から受け取る
  • 契約テリトリーは日本

 

契約一時金についての200億円は一般的に見ても高額な契約の部類に入り、明らかになっていないものの承認時にマイルストーン契約金までも支払う。特に日本だけの契約であるから一層高額の印象を持つ。一方で、上市後は売上げに対する一定の対価を武田薬品から受け取るから、大塚製薬としては、自社の販売能力とボノプラザンの薬剤としてのポテンシャルを高く評価したことなる。もちろん、一時金とマイルストーン契約金を回収しても、余る利益となる計算はしているであろう。

 

ランソプラゾールなどのPPIからボノプラザンに切り替えを早期に進めたい武田薬品とMRを効率的に動かしたい大塚製薬の思惑が一致した。また、両社の懐の事情も垣間見られる。米国のアリピプラゾールで好調の大塚製薬は、経費を増やしても15年に迎えるアリピプラゾールの米国での特許期間満了後に備えたい、厳しい状況に置かれている武田薬品は、現金はいくらあっても良いわけだ。

 

武田薬品は4月から、すべてのMRが全製品のプロモーションを手掛けるゼネラル営業体制を改め、疾患領域別の体制に移行した。コントラクトMRを含めた2300人のMRのうち4割が、ボノプラザンの分類される消化器を担当するとみられる。大塚製薬のMR1200人と合算すれば2100人を超えることになる。エソメプラゾールのプロモーションを行う第一三共とアストラゼネカの3500人体制には及ばないものの、高い評価を受けている武田薬品のMRの質は加点されるところであろう。

 

ボノプラザンの市場導入の不安点を挙げるとすれば、海外での実績がないこと。糖尿病治療薬など国内で大型製品に急成長している品目は、海外での臨床実績に医師が興味を持つことで処方が急激に伸びることが多い。ボノプラザンの国内臨床試験、学会発表で臨床医にどれだけアピールできているかだ。

 

2013年の胃酸抑制薬の市場は3065億円と推定される。ボノプラザンはその薬剤特性から発売5年で500億円の年商の製品になるのと推定している。

 

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。