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カナキヌマブの注目の試験結果

2017/09/29 掲載

抗炎症剤は抗がん剤になりえるのか

 2017年8月、「イラリス」(一般名:カナキヌマブ)の驚くべき第3相臨床試験の結果が発表になった。その試験とは、CANTOS(The Canakinumab Anti-inflammatory Thrombosis Outcomes Study)試験(NCT01327846)のことである。世界1,132施設において2011年4月に開始され、2017年3月に終了したという6年間の長期試験だ。対象は、以前に心筋梗塞を経験し、炎症マーカーである高感度C反応性タンパク(hsCRP)値が2mg/L以上の炎症性アテローム性動脈硬化症患者とした(n=10061)。各群100人の年間あたりの心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる複合エンドポイントは、50mg投与群で4.11%、150mg投与群で3.86%、300mg投与群は3.90%で、プラセボ投与群は4.50%だった。150mg投与群のプラセボ投与群とのハザードレシオ(HR)は0.85(95%信頼区間(95%CI):0.74-0.98)、p値は0.02075となり、あらかじめ設定した閾値の0.02115を下回った。一方、50mg投与群のHRは0.93(0.80-1.07、p=0.30)、300mgのHRは0.86(95%CI:0.75-0.99、p=0.031)で、有意差は無かった。

 カナキムマブが、炎症性アテローム性動脈硬化症患者の再発性心血管イベントの発生率を有意に低下させた。カナキヌマブはLDLコレステロール値に影響しなかったことから、炎症性アテローム性動脈硬化症患者の再発性心血管イベントの発生には、炎症が重要な意味を持つことが示されたことに意義がある。統計的には、ぎりぎりの成功となったが、大規模かつ長期試験を実施したノバルティスが勝利を獲得した。体力のあるノバルティスだからできた試験と言えるのではないだろうか。この試験結果はNew England Journal of Medicine誌(2017; DOI: 10.156)に掲載された。

 カナキヌマブは炎症性サイトカインのIL-1βに対する抗体医薬である。国内では「クリオピリン関連周期性症候群(家族性寒冷自己炎症症候群、マックル・ウェルズ症候群、新生児期発症多臓器系炎症性疾患)」「周期性発熱症」「既存治療で効果不十分な家族性地中海熱」「TNF受容体関連周期性症候群」「高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)」の治療薬として販売している。また、海外では全身型若年性特発性関節炎、痛風関節炎でも承認されている抗炎症薬だ。

 カナキヌマブは抗炎症作用を持って炎症性アテローム性動脈硬化症の再発性心血管イベントの発生率を初めて有意に低下させた薬剤となった。ただし、CANTOS試験ではそれ以上に有用で画期的な知見が得られたのである。カナキヌマブは、強い免疫抑制作用を持つため、副作用として感染症やがんの容易発生が懸念されるところである。長期のCANTOS試験においては、当然リスクについても評価された。驚くことにカナキヌマブが、がんの発生を抑制するというものだ。CANTOS試験において、カナキヌマブ投与群のがん(n=196)の死亡率はプラセボ投与群と比較して低かった(p=0.0007)。ただし、各投与用量別に見ると、カナキヌマブ300mg投与群だけが有意に減少し、そのHRは0.49(95% CI:0.31-0.75、p=0.0009)。また、肺がん(n=129)の発生率については、カナキヌマブの150mgの投与群のHRは0.61(95% CI:0.39-0.97、p=0.034)、カナキヌマブの300mg投与群のHRは0.33(95% CI:0.18-0.59、p<0.0001)と濃度依存性の反応となった。肺がんの死亡率についてはプラセボ投与群と比較して、300 mg投与群のHRは0.23(95% CI:0.10-0.54、p=0.0002)。ただし、カナキヌマブ投与群では、プラセボ投与群と比較して致死的な感染症・敗血症が有意に増えていた。

 がんを発生した患者のhsCRP濃度の中央値は6.0 mg/L、がんが発生していない患者の4.2 ng/Lと、IL-6についても同様に3.2 ng/Lに対し2.6 ng/Lと高い値を示した(いずれもp<0.0001)。カナキヌマブ投与群については、hsCRPのベースラインは26%から41%低下、IL-6値は25%から43%と濃度依存的に低下している(いずれもp<0.0001)。

 IL-1βは炎症経路における重要なサイトカインの1つで、炎症性アテローム性動脈硬化症の継続的な進行に関与することが明らかとなっている。また、IL-1βやIL-1βの下流に位置するIL-6が腫瘍微小環境に影響を与え、浸潤・転移を促しているという仮説も提唱されている。カナキヌマブが炎症性アテローム性動脈硬化症患者の再発性心血管イベント発生抑制に加え、がん、特に肺がんの発生や悪性化を抑制することを初めて示した。今後、抗炎症薬の抗がん剤としての開発が活発化していくことになるであろう。

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