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関節リウマチと治療薬|これって何?バイオコラム 第34回

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関節リウマチは、関節が炎症を起こし、その結果、軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれてしまう病気です。関節の腫れや激しい痛みがあり、関節を動かさなくても痛みが生じる点が他の関節疾患とは異なります。また、左右の関節で同時に症状が出やすいことも特徴です。軟骨や骨の破壊の結果、関節の変形が生じ、日常生活動作(食事・着替え・移動・排泄・入浴など生活を営む上で不可欠な基本的行動)を障害するようになります。

 

日本における関節リウマチ患者数は約70万人と推測されており、リウマチ性疾患で最も多い疾患となっています。1年間で新しく発症する患者数は1万人ともいわれているので、今後さらに増加していくと思われます。関節リウマチ患者数の割合は、1:4程度で女性に発症が多く、発症年齢は若年者から高齢者まで広くみられますが、ピークは40歳から50歳と考えられています。

関節リウマチにおける関節の腫れと痛みは自己免疫疾患によるものであると考えられています。免疫とは大雑把にいうと外来病原体を体内に侵入させないように攻撃して排除する仕組みです。関節リウマチでは免疫系に異常が生じ、自分自身の細胞や組織を攻撃して排除しようとしてしまいます。その結果、炎症が生じて関節の腫れと痛みとなって現れてくるのです。

 

この炎症は関節の中を囲んでいる滑膜とよばれる部分で生じます。滑膜は普段は関節の動きをなめらかにする関節液の産生を行っているところで、関節軟骨には血管が分布していないため、軟骨を栄養する成分はこの滑液から供給されています。滑膜に炎症が生じると、関節液の産生が減少し、関節軟骨に栄養が行き届かなくなり、また関節の動きが悪くなる、というわけです。

関節リウマチの発症初期は関節障害の進行が早く、発症後2年間のうちに関節破壊が起こる患者さんは全体の7割に上るともいわれています。そのため、治療で大切な点は早期に診断して病気の進行を極力抑えることにあります。軟骨は再生力の乏しい組織であるため、軟骨の破壊が起こる前に治療が行われると予後が良くなります。

昔の関節リウマチの治療は、薬で炎症や痛みを抑え、やがて症状が進行し動かなくなってしまった関節を手術で取り除いたり、関節を置き換えたりするものでした。現在は抗リウマチ薬や生物学的製剤の登場によって、関節破壊の進行を抑え、止めることさえも可能になり、患者さんのQOLを高める治療が行われています。

 

関節リウマチの第一選択薬として用いられる代表的な薬剤は、メトトレキサートです。メトトレキサートは免疫抑制剤の一つであり、日本では1999年から保険適応となっています。作用機序は葉酸と拮抗することで効果を発揮します。葉酸は核酸の合成に必須であり、メトトレキサートによって炎症を起こしている滑膜細胞や免疫細胞の活動を抑制することができます。抗リウマチ薬は治療効果が比較的遅いことが特徴ですが、メトトレキサートは比較的速やかに効果が現れ、その後半年に渡ってその効果が増強します。

 

一方、関節リウマチに使用可能な生物学的製剤(化学的に合成したものではなく、生体が作る物質を薬物として使用するもの)は、炎症によって生じた炎症性サイトカインを抑えることで効果を発揮する薬です。炎症性サイトカインはIL-6やTNFαなどが知られており、現在の関節リウマチの生物学的製剤はこのIL-6受容体やTNFαと結合して反応を止めるもの(それに加えてマクロファージとT細胞との結合部位を塞ぐもの)となっています。日本では、2003年にインフリキシマブ(レミケード)が、2005年にエタネルセプト(エンブレル)が保険適応となりました。さらに2008年にはトシリズマブ(アクテムラ) とアダリムマブ(ヒュミラ)も一部の医療機関で使用できるようになりました。

生物学的製剤は非常に効果が高いため、他の治療を中止できることがあります。生物学的製剤は、リウマチ治療のパラダイムシフト(革命的に突然進化すること)といわれるくらい有効性は高く、すでに4万人のリウマチ患者に投与されています。 しかし3割負担で平均月3〜4万円と高価なことや、点滴や注射による投与が必要なことがネックです(最近は自己注射可能な製剤もあります)。また使用中は免疫力が低下するために肺炎や結核などの感染症にも注意が必要です。

生物学的製剤はシグナル伝達経路を細胞の外で抑える、という戦略で作製された薬剤といえます。シグナル伝達経路の途中を遮断する薬が2013年に登場しました。主に細胞増殖、生存、発達、分化に関与するJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害するトファシチニブという薬です。抗リウマチ薬や生物学的製剤による治療効果が芳しくない患者さんに対して保険適応になっています。生物学的製剤と異なり内服薬として投与可能ですが、感染症などの副作用は同様に起こりやすく、また長期間服用した際の副作用については明らかになっていない部分があります。

 

新規リウマチ治療薬としては、S1P受容体アゴニスト(受容体と結合し神経伝達物質と類似した反応を起こす薬物)が注目されています。S1P(スフィンゴシン1リン酸)はプロスタグランジンやロイコトリエンと同様に脂質メディエーター(生物活性を持つ脂質で、細胞外に放出され他の細胞の細胞膜受容体に結合することで作用する分子を指すことが多い)の一つであり、S1P受容体を介して細胞内シグナルを伝達し、細胞の増殖や遊走、分化などに関わっています。S1P受容体アゴニストの一つであるフィンゴリモドはスフィンゴシンと似た構造を持ち、リン酸化された後にS1P受容体に結合します。その結果、S1P受容体が細胞内に引き込まれ、受容体機能が失われるという興味深い作用機序によってはたらきます。このアゴニスト作用にともない、胸腺や二次リンパ節からのT細胞の遊出ができなくなり、末梢血中からのT細胞の減少が引き起こされます。これによって自己免疫状態の改善が期待されます。関節リウマチと同様に自己免疫疾患である多発性硬化症に対してはすでに治療薬として用いられており、関節リウマチへの適応が期待されます。

 

抗リウマチ薬の登場からほぼ20年が経ち、関節リウマチの薬物療法に劇的な進歩がみられるようになりました。しかしながら、まだリウマチを完治させるものではなく、さらなる新薬の開発が望まれます。

 

 

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