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今なぜ子宮頸がん検診なのか|これって何?バイオコラム 第36回

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これまで数回にわたって子宮頸がんと子宮頸がん検診に関して取り上げましたが、今回はその他のがんとの比較や、海外での状況との比較等を通じて、なぜいま子宮頸がん検診に目を向けていただきたいのかを更に掘り下げてみたいと思います。

日本では1981年から死因の第一位はがんであり、国は1984年から政策としてがん対策に取り組んでいます。今や「死因第一位はがん」は日本人の常識ですが、アメリカやイギリスでは死因の第一位は心疾患であり、国によって状況が異なります。がんが死因の一位である国の方がむしろ少ないくらいです。

 

さて、厚生労働省が2007年6月に策定した「第1期がん対策推進基本計画」では、「2015年までの10年間で75歳未満年齢調整死亡率(基準となる人口の年齢構成を考慮し補正した死亡率)の20%減少」が具体的な目標値に設定されましたが、結局この目標はがん全体としては達成されませんでした(最終的な減少率は15.6%)。このとき国立がん研究センターからがん種別の結果(計画前後の傾向比較)も公表されていましたので改めてご紹介します。

  • 目標達成:胃がん(33.2%減)肝がん(48.8%減)
  • 目標未達成:肺がん(7.3%減)、大腸がん(6.5%減)、乳がん(2.7%増)、子宮頸がん(9.6%増)

 

死亡率が減少せずむしろ増加した乳がんと子宮頸がんについて、計画前の10年間の死亡率と対象期間の10年間の死亡率とがそれぞれ、その前の10年間と比較してどれくらい変動したのかを示したデータによると

  • 乳がん:13.6%増→2.7%増…増加はしたが改善傾向
  • 子宮頸がん:3.4%増→9.6%増…悪化が進行

という結果でした。つまり、子宮頸がん以外の全てのがん種で、傾向としてはがん征圧の方向に向かっているのに対し、子宮頸がんだけが状況の悪化に歯止めがかかっていません。これまで不定期に数回にわたってお伝えしてきた事実と合わせてまとめますと、

  • いま子宮頸がんが増加している
  • とくに20歳代から40歳代に顕著に増えている
  • 他のがんとは異なり死亡率も悪化の一途を辿っている
  • それなのに検診の受診率は低い

ということになります。視点を変えて、海外での子宮頸がんの状況と日本の状況とを比較してみます。

実は、現在子宮頸がんの罹患や死亡は減少に向かっている国が多く、日本での10万人当たり罹患数は13.3人であるのに対し、例えばオーストラリアでは6.9人しかいません。WHOでは人口10万人あたり4人を切ると、もはや公衆衛生上の問題とはみなされず「elimination」(撲滅、排除)と定義されるため、オーストラリアでは子宮頸がんはあと一息で撲滅と言えるところまで来ていると言われています。

 

次に、世界で現在取られている子宮頸がん征圧のための戦略と、その実行状況を概観してみましょう。現在世界的には一次予防としてHPVワクチンの接種、二次予防としてHPV検査を含む検診の実施、更に三次予防として浸潤がんへの治療という「三段構え」が子宮頸がん征圧のための戦略として一般的になりつつありますが、三次予防は浸潤がんの治療ですので実質的には一次予防と二次予防の果たす役割が極めて重要です。検査・検診は二次予防ということになります。

前述のオーストラリアにおいては、一次予防であるHPVワクチンの接種率は約8割、二次予防である子宮頸がん検診の受診率は約6割であるのに対し、日本ではワクチン接種は1%未満、検診の受診率は4割程度しかありません。日本のワクチン接種率が低い理由は、2013年から6年以上にわたりHPVワクチンに関する「積極的な接種勧奨の差し控え」が継続されているという極めて異例の事態が影響しています(詳細は厚生労働省のホームページをご参照願います)。ワクチンについての動向は今後も注意深く見守っていく必要があります。

 

ところで、二次予防である検診に関しては、「受診率」が比較可能な指標として多く用いられていますが、受診率の違いをもたらしている要因の中には日本にいると意外に気付けない点も含まれています。その一つが検診の際に検体を採取するのが誰か、という問題です。ヨーロッパにあるOECD諸国のうち子宮頸がん検診受診率が75%以上の高受診率の国にはオーストリア、スウェーデン、イギリス、アイルランド、スイス等がありますが、オーストリアとスイスでは婦人科医に加えてかかりつけ医が、スウェーデンでは助産師が、イギリスでは婦人科医に加えてかかりつけ医・看護師・助産師が、アイルランドでは登録を済ませた様々な医療関係者が検体採取を担っています。検体を採取する実質的な人数が多く確保されていることと高い受診率の達成との間には高い相関がありそうです。

検体を採取できる人を増やしつつ受診率を上げるための究極の方策が自己採取HPV検査です。実際、イギリスは日本よりもずっと高い受診率を達成しているにも関わらず、とくに若年層での更なる受診率向上を目指して、自己採取HPV検査のパイロットスタディーをロンドン市内で実施すると伝えられています。

 

HPVへの感染によって罹患することが明確になっている子宮頸がんでは、制圧への選択肢はわずかしかありません。現在の日本ですぐに実行できるのはHPV検査を含んだ検診方法の採用と、検診の受診率を抜本的に向上させることです。そのためにできることは何か、そして仮に受診率が抜本的に向上したとしたらどのような状況が生まれるのか、を想像力を働かせ知恵を出し合いながら考える必要があります。 他のがんと比べても、そして海外の状況と比べても決して進んでいるとは言えない日本の子宮頸がん対策について、もっと多くの日本人が目を向けることを希望しつつ、私たちはこれからも様々な取り組みを続けてまいります。

 

関連サイトはこちらからご確認ください。

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。