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糞便移植と腸内フローラ|これって何?バイオコラム 第43回

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以前、当コラムの第32回 腸内細菌叢で糞便移植をご紹介いたしました。2021年1月Gastroenterologyに糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)によってクロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection:CDI)の治癒率が約9割に上るとの論文が掲載されたためご紹介します。

 

Kelly CR, et al. Fecal Microbiota Transplantation Is Highly Effective in Real-World Practice: Initial Results From the FMT National Registry. Gastroenterology. 2021;160:183-92.
https://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(20)35221-5/fulltext

 

<クロストリジウム・ディフィシル菌とは>

クロストリジウム・ディフィシル(CD)は、酸素をとても嫌う偏性嫌気性菌のため、昔は培養が困難であったことから「困難な→difficult」をその名の由来としています。抗菌薬の使用等で腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが崩れた際にCDが増殖(菌交代症)し、産生する毒素が原因で下痢や腸炎を発症することがよく知られていますが、重症になると偽膜性腸炎や腸閉塞、敗血症、消化管穿孔(消化管に穴があくこと)などを起こし死亡するケースもあります。

CDはヒトを含む動物の腸内に存在する常在菌のため、健康な成人の大便からも2~15%の頻度で検出されます。アルコール消毒薬や化学物質、100℃の煮沸でも完全な不活化が難しい芽胞と呼ばれる小さな構造物を形成し周囲を汚染するため、病院や老人施設等における入院患者や入居者での集団感染が発生する場合もあり、特に、免疫機能が低下している場合や、65歳以上の高齢者に発生するケースが多いようです。また、健康な乳幼児の大便には15~70%もの高い頻度で検出され、毒素も高い濃度で検出されますが、なぜか乳幼児の場合は臨床症状を示さず、その理由はまだ解明されていません。

 

アメリカでは毎年CDI患者が50万人ほど発生していると推計されており、そのうち死亡者が1万5千人~3万人にも及ぶとされ大きな問題となっています。2002年にはCDによるアウトブレイクも発生しました。CDの定性検査は産生する毒素を検出するキットで行い、抗菌薬も開発されましたが、もともと抗菌薬によって引き起こされる腸内フローラの乱れが原因で発症しているため抗生物質での治療に限界があり、また、薬剤耐性を持つCDも出現するなど根治が難しいとされてきました。そこで考えられたのが糞便移植療法(糞便微生物移植=Fecal Microbiota Transplantation(FMT))です。

 

 

<腸内フローラ移植とFMT>

FMTは、崩れた腸内細菌のバランスを戻したり改善するため、期待が高まっています。「腸内フローラは臓器である」と言われることもあり、臓器移植と同様に腸内フローラを移植するのは自然の流れかもしれません。アメリカでは「OpenBiome」、日本国内では「JapanBiome」など、いわゆる「便バンク」も出現しています。

 

FMTの主な流れは以下の通りです。

  1. 腸内フローラ検査
  2. 便バンクに登録されている健康なドナーを選定
  3. 移植用の菌液を精製
  4. 菌液を肛門から注入
  5. 3、4を数日に分けて再移植
  6. 再検査・経過観察

FMTによれば、痛みが少なく安全に腸内フローラを移植することができます。

 

 

<FMTの注意点>

ただし、FMTには注意も必要と言われています。まだFMTはFDAの承認は得られておらず、研究段階です。日本でも保険適用はされておらず、国内で実施する場合は全額自費診療となります。また、多剤耐性菌に感染し死亡した例もあり、未知の副作用なども起こるリスクがありますので、環境整備が必要になると言われています。さらに、FMTによる興味深い副作用も報告されていたためご紹介します。

 

Neha Alang, Colleen R Kelly Weight gain after fecal microbiota transplantation. PMID: 26034755
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26034755/

この論文によると、なんと移植する便を提供したドナーに肥満傾向があると、「移植を受けた人の腸炎は改善されたものの太り始めた」とのことです。糞便中の微生物の移植で体質も移植される可能性があるという不思議な現象です。逆に、痩身のドナーが提供する便を使用したら、もしかしたらFMTは将来ダイエットにも効果を発揮するかもしれません。FMTの今後の展開に注目していきたいと思います。

 

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。