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再生医療の希望と課題|これって何?バイオコラム 第21回

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こんにちは。もも太です。

今回は、我々の業務分野から少し離れた話題を取り上げます。再生医療と聞けばiPS細胞(注①)の話題かと思うのはもはや私だけではないと思います。すでに分化を経た細胞の時計を巻き戻し、新たな自己複製機能を持たせるという新しい細胞の作り方を示したのが、ちょうど10年前(もう10年も経つのですね!)でした。当時は、「そんなことあるの!?」と本当に驚きましたので、鮮明に覚えています。「この技術は凄い!絶対に医療に役立つ!!」と思っていたのですが、社会への貢献事例もまだ示されていなかったにもかかわらず、ノーベル賞まで受賞してしまいました。この発明は今後必ず医療に役立つと、太鼓判を押されたようなものです。

 

iPS細胞は、簡単に言うと、ヒトの皮膚などの細胞に特定の遺伝子(山中因子)を入れて人工的に作られた細胞で、幹細胞と同じような分化能力を備えています。実際に、iPS細胞は、「万能細胞」と称され、あらゆる細胞になり得ますので、この細胞を基にした臓器の複製や作製などへの応用研究が進められています。もしこれらが実現できたら、今まで治療が困難だった病気の治療へ可能性が広がるばかりでなく、新薬の開発にも応用することができ、今後の医療において非常に重要な役割を担うことになります。

 

「万能細胞」と呼ばれる細胞には、ES細胞もあります。日本語に訳すと「胚性幹細胞」といいます。胚とは、受精卵が6、7回ほど分裂した細胞で、胎児になる少し前の細胞です。ES細胞は、iPS細胞とよく似ていますが(いやいやiPS細胞の方が後出なので、iPS細胞がES細胞と似ているというべきですね)、この細胞はヒトの受精卵として一つの生命とみなされているため、医療に利用する時には必ず倫理的問題が生じます。一方のiPS細胞には、胚細胞を滅失することが根本的に無いことから、この問題を回避できます。しかし、実用化に向けた問題はまだまだあります。まず挙げられるのは、iPS細胞の作製は、染色体に遺伝子を取り込ませる方法や発がんに関連する遺伝子を使っていることから、利用後のがん発症のリスクがまだ十分に解明されていないということ。次に挙げられるのは、細胞を安全に分化させるための標準方法が確立されていないことです。iPS細胞から新しい細胞を作ることができれば、すぐに治療につなげられると考えられがちですが、細胞という小単位のみで治療できる病気は限られています。そこで、次の段階としてはより機能が発揮できるように、組織や臓器の複製や作製へと望まれるところですが、これらを達成するために超えなければならない技術的ハードルは、非常に高いと容易に想像できます。

 

その上、費用の問題はさらに深刻です。すでに臨床研究が開始されている、加齢黄斑変性(注②)の2例目の臨床研究が今年新たに開始される見通しとなっています。1例目では患者自身から作った自家iPS細胞を使用した研究でしたが、2例目では本人以外の細胞(他家細胞)からiPS細胞を作り、さらに冷凍保存した細胞を使用するといいます。これは実用化のコストの低減において大いに意義があります。調べてみると、患者自身の細胞を使う場合は治療を始めるまでに1年近くの期間を要し、諸説ありますが費用見込みは3,000万円~1億円とされています。一方、ストックのiPS細胞を利用できるとすると、治療を始めるまでの期間が半年に短縮でき、費用は1,000万円を切る可能性があるといいます。大幅に安価になるとはいえ、多くの患者さんがこの恩恵を受けられるようになるのはまだまだ先のようです。また、網膜の移植に必要な数千個の細胞を作る場合でもこれだけの費用がかかるのですから、臓器の作製ともなれば何十億とかかることになるでしょう。

 

それでもiPS細胞が、将来の医療への大きな可能性を秘めていることには間違いなく、世界中が注目しています。日本における臨床研究は、科学大国米国よりもやや一歩リードしているようで、今年も、心筋シートの重症心不全患者への移植、角膜上皮組織の再生医療、脊髄損傷治療などの新たな臨床研究が計画されています。

 

注① iPS細胞:(induced pluripotent stem cells)2006年、京都大学山中教授が作製に成功した人工多能性幹細胞。

注② 加齢黄斑変性:網膜の中心にある黄斑部の機能が低下する病気で、視野の中心でものがゆがんで見えたり、小さく見えたり、視力が低下するという症状が起こる。国内の50歳以上の約1%にみられる。

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。