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第28回 医療ビッグデータとAI(人工知能)の活用

 

 最近はどのメディアでもAI(Artificial Intelligence)という言葉が頻繁に使われています。以前はAIと言って最初に思いつくのはロボットでしたが、現在はスマート家電や車の自動運転技術などが発達してきたので、私たちの生活に身近なものと感じられている方もいらっしゃると思います。

 AI、いわゆる人工知能は、これまでの半世紀で何度もブームになってきました。前回は1980年代に起こったもので、我が国でも、人工知能を搭載した処理能力の高い"第5世代コンピュータ"を開発する目的で570億円もの巨費を投じた国家プロジェクトが動いていました。今回は第3次AIブームと呼ばれ、コンピュータの処理速度の劇的な向上と、インターネットとモバイル端末の普及によって流通データ量が爆発的に増大したことが後押ししているようです。

 AIは、その学習能力の高さを示す話題として、チェスや囲碁などのテーブルゲームで人間に勝ったことが取り上げられるのを良く見ますね。

 Google 傘下のDeepMind社が開発した囲碁ソフトAlphaGoは、2015年から立て続けにプロ囲碁棋士に勝利しました。それだけでもスゴいことなのに、2017年には世界でトップの棋士を破ったのです。AlphaGoのAIは、機械学習や深層学習(Deep Learning)に基づいた技術を盛り込んでおり、トップ棋士を破ったAlphaGoのバージョン「AlphaGo Master」は、これまでに蓄積されてきた膨大な棋譜データを読み込み検証、解析することで大きな成長を遂げました。

 この膨大なデータは「ビッグデータ」と呼ばれ、テーブルゲームとは別の分野に代わっても、AIが学習する際には重要な情報となります。

 ビッグデータの活用は、医療業界にも広がっています。米国では、2015年にオバマ元米国大統領の一般教書演説で発表された“Precision Medicine Initiative”を皮切りに、細胞を遺伝子レベルで解析して応用する「精密医療」において、ビッグデータの活用が進められてきました。代表的なものとして、第22回のコラムで紹介したクリニカルシーケンスのように、がん患者さんの病変部位から組織を回収してゲノム遺伝子解析を行い、遺伝子の異常に応じた分子標的薬を主治医が処方する「診療支援」があります。この方法では、網羅的な遺伝子解析が可能な次世代シーケンサー(NGS: Next Generation Sequencer)から得られたデータを、関連する文献や遺伝子データベース情報が蓄積されたビッグデータで処理します。これによって、必要な情報(この場合は適切な分子標的薬)が抽出できるわけです。

 我が国でも、がんゲノム医療の全国的な体制構築に向けて準備が進められています。今年2月には、厚生労働省によって開催された「がんゲノム医療中核拠点病院等の指定に関する検討会」においてゲノム医療中核拠点病院 11機関が指定されました。今後は、中核拠点病院を中心とした連携医療機関のネットワークが形成され、充分に検討された技術に裏打ちされた質の高いクリニカルシーケンスを患者さんに提供できるような体制が構築されることに期待が寄せられています。

厚生労働省プレスリリース

 当社でも、NGSを用いた網羅的がん遺伝子解析サービスを提供しています。当サービスでは、QIAGEN社のGeneReaderシステムによって得られた患者のFFPE検体に由来するゲノム変異データが、ゲノム情報や関連論文を元にしたデータベースを介して処理され、分子標的薬などのがん治療の指標となる研究用途情報を盛り込んだレポートの様式で報告されます。そのデータベースはビッグデータではなく"知識ベース"と呼ばれ、ヒトの手によって精査された130万件を超える知見、8000件を超える薬剤など多岐にわたる情報が収納されており、その更新が週単位で行われた上で解析データと比較分析されます。

 近年の医療ビッグデータは、ゲノム解析情報の統合化に加え、健康診断のシステム化や電子カルテの普及によって、取り扱うデータ量が益々増大しています。しかし、それら大量の情報処理を人力のみに頼ることには当然限界があるため、すでに、医療ビッグデータ活用の場にAIは欠かせないと見込まれており、数多くのソフトウェア関連企業がシステムの開発・実用化を進めています。また、2016年には国立がんセンター等が、科学技術振興機構CRESTの研究領域「イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化」に採択されました。同センターには元々、患者さんの臨床情報やマルチオミックスデータ(ゲノム、エピゲノム、画像情報など)が蓄積されています。当プロジェクトの目的は、それらに文献情報なども加えた膨大なデータを人工知能を利用して統合的に解析し、日本人のがん患者にとって革新的ながん医療システムを開発することにあります 。

CRESTホームページ

 そのようなシステムが一般に普及すれば、いよいよ我が国でも精密医療が根付いたといえるのではないでしょうか。

 このようにAIは今後の医療ビッグデータを解析するうえで重要なツールであり、AIが得意とする画像認識や機械学習は、医療現場の支援に幅広く役立つ可能性を秘めています。しかし、AIの特性は情報入力や学習方法によって大きく変動するため、「すべてお任せ」とはいかず、人間の舵取り具合が重要な要素を占めていることに変わりはないのかもしれません。

 さて、冒頭に紹介したAlphaGoですが、その後、更なる進化版が開発されています。その名も「AlphaZero」。2017年12月にDeepMind社から発表されたこのプログラムは、ビッグデータを必要とせず自己学習のみで能力を向上させることができる特長を持っています。しかも、囲碁だけでなく、将棋やチェスも嗜み、それぞれのチャンピオンプログラムに勝ち越すという結果を残しました 。(BBCホームページ)しかも、短期間の自己学習で進化を続ける能力には目を見張るものがあります。

 DeepMind社は、AlphaGo Zeroのアルゴリズムはビッグデータの確保が難しい新薬開発の分野でのブレイクスルーに繋がる可能性があるとしていますので、今後の活用方法に注目です。

 

関連サイトはこちらから

がん関連遺伝子パネルを用いた変異解析

https://www.gene-lab.com/gas/cat375/

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