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子宮頸がん検診では子宮を守りきれない?|これって何?バイオコラム 第29回

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このコラムをご覧になっている方は女性と男性、どちらが多いのでしょうか?今回は現在の日本で子宮頸がんから身を守るにはどうすればよいのかについて考えてみたいと思います。子宮は女性にしかない臓器ですが、男女関係なく必ず私たちが生を受ける場所です。どうか男性の方もご一読下さい。

 

日本では科学的な根拠に基づいたがん検診の指針が5つのがん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)について定められており、自治体が行う「がん検診」はこの指針に基づいて行うこととされています。子宮頸がんについては、20歳以上の女性に2年に1回、子宮頸部(子宮の入り口部分)の細胞を採取して調べる「細胞診」を受診する機会を自治体が提供することが求められています。この細胞診ですが、受診して問題が発見されなかったからといって必ずしも子宮頸がんによる様々なリスクから身を守ってくれるものではないと言ったら、ほとんどの女性が驚かれるのではないでしょうか。特に、これから妊娠と出産を希望する女性にとっては驚くだけでは済まされない話だと思います。

 

現在行われている細胞診には長い歴史があり、日本のみならず多くの国で、子宮頸がんによる死亡を減らす上で大きな効果を上げて来ました。細胞診が子宮頸がんによる死亡を減らしてきたことには膨大なデータの蓄積があり、科学的に根拠があるとされています。しかし、この検査方法は初期の子宮頸がん(「前がん病変」と言われるがんの前段階のものを含みます)を検出する感度が十分に高いという訳ではないことが分かっています。細胞診によって判定される子宮頸部異形成は、その病変の程度によって、軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成・上皮内がん(CIN3)と段階があるのですが、自治医大の研究では「CIN3」という段階か、それより進行した状態で発見された女性のうち37%の方は過去3年以内に細胞診を受けていたという結果が出ています*1。つまり、この37%の女性は少なくとも検診ではCIN3になる前の段階では病変が発見されなかったということになります。

CIN3(上皮内がんが含まれる段階)以降で発見されるか、CIN2(前がん病変の段階)で発見されるかという違いは、子宮の摘出が必要となるか否かという大きな違いに関わってきます。CIN2の状態からは自然に治癒することがある一方、CIN3以降の状態からは自然に治癒することはほぼないということが知られているため、通常はCIN3以降で発見されると治療が開始されます。そして、CIN3で発見されれば子宮を摘出しない治療も選択肢にはありますが、更にそれ以降で発見されると基本的には子宮摘出が治療の前提となってきます。一方、前がん病変の段階で発見できるということは、その後の定期的な検査によって、CIN3に進行するかどうかと、CIN3に進行する場合にはそのタイミングを把握できるということを意味します。確実に子宮を残すためには、CIN2で発見できるということは極めて大きな利点ですが、感度の観点から細胞診だけでそれが出来るとは言い切れません*2

つまり、指針が定める2年に1回の細胞診を受けることで、「子宮頸がんによる死亡」から女性の身を守る効果が高いことは分かっていますが、更に一歩進んで「子宮頸がんによる子宮の摘出」から身を守ってくれるとまでは言えないのです。

 

では、前がん病変の段階で確実に発見できる検査方法はあるのでしょうか。実は、前がん病変の状態の検出感度を飛躍的に高める方法があります。子宮頸がんの原因究明に関しては近年大きな進歩があり、子宮頸がんの検査方法に新たな選択肢をもたらしました。それは「子宮頸がんの原因となるウイルスの感染を検査する」という細胞診とは全く異なる方法です。

 

子宮頸がんの原因を探る試み自体は昔から行われていました。修道女の子宮頸がんは極めて稀であることは古くから知られていたことから、子宮頸がんの発症には「性交渉」が何らかの形で関係していることが推測されていましたが、近年の研究で子宮頸がんの原因はハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)の感染であることや、HPVは主に性交渉によって感染することが明らかになり、この推測の正しさが科学的に裏付けられました。原因が明らかになったことで、この原因ウイルスへの感染を調べる検査の研究が進められ、現在ではその方法は確立しています。この検査が「HPV検査」です。HPV検査はがん細胞そのものを調べる検査ではありませんが、がんになるリスクであるHPVの感染を極めて高い精度で検出できる検査方法です。

HPV自体は非常にありふれた一般的なウイルスであり、これに感染したからと言って、全員が子宮頸がんになるわけではありません。ほとんどの方では自身の免疫によってウイルスは消失します。しかし感染者のうち約10%の方は感染が3年以上続き、更にそのうちの一部の方ががんに進行していきます。一方、HPVに感染していなければその時点での子宮頸がんになるリスクはほとんどないと言えます。HPVに感染している方は、(HPV検査はがんそのものを調べる検査ではないため)細胞診を受診することでがんになっていないかどうかを調べる必要がありますが、このように二つの検査を組み合わせることで、ほぼ100%子宮頸がんと前がん病変を発見できるということが研究結果で明らかになっています。

 

かつて、子宮頸がんは比較的高齢の女性がかかることの多い病気でしたが、がんになる方(罹患者)は年々若年化してきており、現在では妊娠・出産をする年代とほぼ同じ20歳代から40歳代に罹患者のピークが重なっています。子宮頸がん検診だけが20歳以上の若い女性までをも対象としているのは、それだけこのがんにかかり、命を落とす若い方が多くなってきたことの裏返しです。子宮頸がんは初期で発見できれば助かる可能性の高いがんですが、罹患初期では症状が全くないことが多いので、初期で発見するには検診の受診が欠かせません。しかし一番検診を受けるべき比較的若い女性自身がリスクを自覚していないため、なかなか検診を受けに行く若い方が増えないというのが現状です。

 

HPV検査は、一部の先進国では既に政府の検診プログラムにも採用されている方法ですが、日本ではまだがん検診に採用するかどうかの検討がされているような段階です。しかし、こうしている間にも多くの女性がリスクにさらされており、子宮が摘出されるような事態から身を守るには、女性自身がこのがんについて理解し、自分の身を自分で守る意識を持つことが大切です。このコラムをご覧になった方は是非、身近な女性と子宮頸がんについてお話しして頂ければと思います。

HPV検査についてご相談のある方は本ページ一番下に表示の医療機関までお願い致します。

 

 *1 森澤 宏行 他 日本臨床細胞学会誌51(3):164-168, 2012
 *2 日本産婦人科医会「子宮頸がん検診リコメンデーションとHPVワクチンの普及に向けて」P.7より

 

関連サイトはこちらからご確認ください。

 

 

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