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第31回 がんゲノム医療の現状

 

 昨年、第22回のコラムで「クリニカルシーケンス:がん患者のゲノム遺伝子の異常に対し、臨床の現場でその解析を行うことによって、患者に最適な薬剤を調べ、その結果を主治医にリポートする試み」のお話をさせて頂きましたが、この1年でがんゲノム医療の状況は大きく変化しました。

 皆様ご存じのように2018年2月に全国11施設のがんゲノム中核拠点病院が指定され、4月から国立がんセンター中央病院がNCCオンコパネルを用いた遺伝子検査を先進医療Bの枠組み(参照URL)で開始しました。NCCオンコパネルは、がんに関連する114個の遺伝子変異と12個の融合遺伝子変異を1回の検査で調べることが可能です(https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/information/20180403/index.html##01)。今後、がんゲノム医療拠点病院を中心にがん遺伝子パネル検査(NCCオンコパネル)検査が開始されようとしています。

 中外製薬は、2018年3月16日、スイスRoche社傘下の米Foundation Medicine(FMI)社のがん遺伝子パネル検査(がん領域のクリニカルシーケンス検査)である「FoundationOne CDx」について、日本での製造販売承認申請を行ったと発表しました(https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20180316150001.html)。

 FoundationOne CDxとは次世代シーケンサー(NGS)を用いて網羅的にがん関連遺伝子の解析プロファイリングを提供するシステムです。患者の固形がん組織から得られたDNAを用いて324の遺伝子における欠失、コピー数異常(CNA)、遺伝子融合などの変異検出に加え、マイクロサテライト不安定性(MSI)、遺伝子変異量(Tumor Mutational Burden:TMB)などのゲノム・バイオマーカーが検出されます。

 このシステムでは、EGFR、ALK、BRAF、ERBB2(HER2)、KRAS、NRASおよびBRCA1/2の遺伝子変異を検出することが可能であり、国内で既に承認されている分子標的治療薬のコンパニオン診断として、適応判定補助に使用される予定です。

 あるシンポジウムで、FoundationOne CDxの日本での展開を「黒船到来」だと例えられていましたが、我が国におけるがんゲノム医療の脅威となるのでしょうか。

 一方、468個の遺伝子の解析が可能なMSK-IMPACT検査があります。このパネルはニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンター (MSKがんセンター)で開発されたパネルです。現在、国内では順天堂大学医学部付属病院、横浜市立大学附属病院、東北大学付属病院で検査を受けることが可能となっています。(http://tailor-med.com/pages/link

 最近では今年5月にがんゲノム中核拠点病院である慶応義塾大学病院が臨床研究においてPleSSision Rapidを開始しました。このがん遺伝子パネルは160のがん関連遺伝子で、すべての腫瘍を対象に病理診断後の組織を用いて最大4,000症例について実施するとの事です。

 今後、これらの検査の普及によって保険収載されれば、すべてのがん患者がゲノム医療を受けられる時代もやって来ると思いますが、一方で分子標的薬の治療にまで到達できない患者も多くいることが大きな課題となっています。変異を確認できたことと、実際にこれに対処できる有効な治療薬が存在することとは別の問題ですし、薬剤の有効性もまた違います。適応外使用や未承認薬による治験を含め、治療を受けられる患者は現在、がん腫にもよりますが全体の10%から多く見積もっても20%程度にとどまります。これから数年間の最大の課題は、承認治療薬を増やすことだと思われます。

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