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本庶佑先生がノーベル賞を受賞|これって何?バイオコラム 第33回

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ノーベル財団は2018年10月1日、京都大学高等研究院特別教授の本庶佑博士を2018年のノーベル生理学・医学賞の受賞者に選んだと発表しました。受賞理由は「免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用」です。免疫を担う活性化T細胞の抑制に関与する細胞傷害性Tリンパ球抗原4(cytotoxic T-lymphocyte associated antigen 4:CTLA-4)を発見した米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター教授のJames Patrick Allison博士との共同受賞となりました。本庶先生は、免疫細胞の研究に取り組み、がん細胞が体内の免疫機構の活性を抑制する免疫チェックポイントの仕組みを発見しました。同研究は、小野薬品工業と米Bristol-Myers Squibb(BMS)社が発売している抗Programmed cell death(PD)-1抗体である「オプジーボ」(ニボルマブ)の創製につながりました。ノーベル財団は、受賞者に対しツイッターで「免疫チェックポイント療法はがん治療に革命をもたらし、がんの管理方法を根本的に変えた。今年のノーベル賞受賞者は、がん治療の全く新しい原則を確立した」などと賛辞を送っています。専門誌各誌が行ったノーベル受賞者予想のアンケートによると、本庶先生が大本命との結果となっていたことからも日本人として誠に喜ばしい受賞となりました。

 

本庶先生は物理学、化学、生理学・医学の自然科学の3賞において日本人で23人目の受賞者となりました。生理学・医学賞の受賞は、1987年の利根川進先生、2012年の山中伸弥先生、2015年の大村智先生、2016年の大隅良典先生に次いで日本人で5人目となります。受賞理由をみると利根川先生は「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」、山中先生は様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞の作製」、大村先生は「線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法に関する発見」、大隅先生は「オートファジーの仕組みの解明」と教科書の内容を書き換えるほどの超一流の研究成果です。日本の自然科学研究の質の高さを物語っています。

 

もちろん、このような研究は多くの研究者の関与があって達成できるものです。しかし、多くのメディアは共同研究者について報じてはいないため、ここで触れてみたいと思います。PD-1を発見したのは本庶先生の研究グループにいた石田靖雅博士(現・奈良先端科学技術大学院大学)です。

その論文は

「INDUCED EXPRESSION OF PD-1, A NOVEL MEMBER OF THE IMMUNOGLOBULIN GENE SUPERFAMILY, UPON PROGRAMMED CELL-DEATH」Ishida Y, Agata Y, Shibahara K, Honjo T., EMBO J., 11, 3887-3895(1992)

です。第一著者は石田先生であり、最終著者は本庶先生となっています。メディアも発見者をもっと重んじるべきではないでしょうか。2002年には本庶先生のグループにいた岩井佳子博士(現日本医科大学 先端医学研究所 細胞生物学分野/細胞生物学部門 大学院教授)がマウスモデルにおいてPD-1シグナルを遮断するとがん細胞の増殖が抑制されることを論文発表しています。

表題は

「Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade」。Yoshiko Iwai, Masayoshi Ishida, Yoshimasa Tanaka, Taku Okazaki, Tasuku Honjo, and Nagahiro Minato, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 99, 12293-12297(2002).

です。この発見が研究を加速させることになりました。その後、PD-1リガンド(活性化T細胞上のPD-1受容体へ特異的に結合する物質)を高発現しているがんは予後不良であること、がん細胞はPD-1リガンドを高発現させることでT細胞などの免疫監視機構から逃れていることが分かりました。

 

本庶先生の記者会見での発言が興味深かったのでご紹介します。本庶先生は2002年PNAS誌の論文を出した後に、さまざまな製薬企業を訪問して、共同研究を申し込んだものの全部断られたことを明かしています。仕方なく米国のベンチャーに話を持ちかけたところ1時間の協議でぜひやろうと決まり、条件として小野薬品工業の権利の放棄を提案されたそうです。小野薬品にそれを伝えると「待ってほしい」と言われ、その3ヶ月後に突如小野薬品がやることになりました。その後、抗CTLA4抗体を開発していたメダレックス社(現BMS社)が、小野薬品に話を持ちかけ共同研究が進んだそうです。「日本のアカデミアには良いシーズがあるのにもかかわらず、日本の製薬企業は日本より海外の研究者と組んで研究費を出している。見る目が無いと言わざるを得ない」と手厳しい発言がありました。国内企業は海外案件を優先しがちですが、導入もサイエンスとして評価すれば、公平な目で見ることができるのかもしれません。

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。