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「科学的根拠に基づくがん検診」と「受診率向上」|これって何?バイオコラム 第35回

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がん検診の受診によってがんによる死亡を減少させるためには何が必要でしょうか。今回は、この問題に取り組んでいる国立がん研究センターから2018年11月14日に公表された「子宮頸がん検診ガイドライン」ドラフト(案)の内容にも触れながら、この問題について考えてみます。

国立がん研究センターが運営するホームページ(「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」)にも記されているように、がん検診の受診によってがんによる死亡を減少させるためには有効な検診を正しく実施する必要があり、正しく実施するためには受診率対策と精度管理が重要な課題となります。このうち、受診率に関して言えば、日本でのがん検診受診率は国際的に見ると押しなべて非常に低いのが現状です。

せっかく「科学的根拠に基づく」がん検診を作り上げても、受診率が低ければがん死を減らすという大目的に対しては画餅に過ぎないということになりかねないので、受診率の確保も同時に進める必要があることについては論を待たないところでしょう。ただし、ガイドラインでの受診率対策に関しては、がん種によってその言及され方の強弱に差があります。とりわけ子宮頸がん検診に関して言えば、現行のガイドライン(2009年版)では「受診率対策の検討が必要である。」とされていながらも具体的な提言は行われていませんでした。

 

今回公表された子宮頸がん検診ガイドラインのドラフトではHPV(HumanPapillomaVirus:ヒトパピローマウイルス)検査の推奨グレードが現行の細胞診と同じ「グレードB」に引き上げられると同時に、受診率を向上させる具体的な方法として、初めて「自己採取HPV検査」が本文の中で取り上げられました(HPV検査の意義についてはコラム第29回をご参照ください)。

自己採取HPV検査とは、受診者が自分で採取した細胞を用いてHPV検査を行う方法です。受診率向上のために有効な対策として海外では政府の正式な検診プログラムに取り入れる国も出ており、今回のドラフトでも検査法自体は評価を得ています。しかし、結果が陽性となった場合に要求される精密検査(精検)受診率の向上に結び付くかどうかが明確ではないという理由で推奨するには時期尚早とされています。一方で、今回のドラフトでも自己採取HPV検査以外に受診率向上策として具体的に取り上げられたものは他にありません。

 

では、受診率が高い海外の国々ではどのような工夫が行われているのでしょうか。例を挙げると、子宮頸がん検査用の細胞採取を、医師だけではなく一定の訓練を受けた看護師や助産師も担う等の対策を講じることで検体採取に対応できる人数を確保して受診の裾野を広げたり、検診の受診歴を電子データとして記録し、未受診者が医療機関にかかった際にはその情報を基に受診が促される仕組みが作られたり等、様々な工夫が行われています。つまり、日本でも行われているような「コール・リコール(受診勧奨・再勧奨)」に加えて、より容易に受診できたり、受診を促したりする様々な仕組みが国を挙げて整えられていると言えます。

 

その一方で日本では、医師の指示の下で子宮頸がん検査用の細胞採取を看護師が業として行うことは可能であるという国の見解が示されてはいます*1が、実際に看護師が検体採取を行ったり、看護師向けに検体採取の訓練を行う等の積極的な動きは残念ながら出ていません。検診の受診歴を情報として共有するシステム構築の動きもなく、行政検診における受診率の向上策としてはコール・リコールの細かな改善頼みなのが大多数の自治体での実情です。コール・リコールにはある程度効果があることは知られていますが、これまでにも既に行われてきている方法であるため、このことで更に受診率を上げようとしても限界があります。加えて、実際に子宮頸がん検診を受けるために予約を入れようとしても、何か月も先まで予約で一杯という医療機関や検査機関も少なくなく、現実的に受診が困難という状況が発生していることも看過できません。

 

精密検査受診率の向上はとても大切ではありますが、そもそもがん検診の受診率が低い現状では、それと並んで、あるいはそれ以上にがん検診自体の受診率を上げることは極めて重要であり、そのために自己採取HPV検査の導入が有効な方法であることは多数の無作為化比較対照試験(研究対象となる人を無作為に二つの集団に分けて比較する試験)の系統的レビューの結果からも明らかになっています*2

サンプル採取ができる人数を飛躍的に増やすことも、医療機関で未受診者に受診を働きかけることができるシステムを構築することも、すぐに実現させることは難しいでしょう。しかしこれらを実現するまでに10年も20年もかかっている間に、子宮頸がんの好発年齢であり妊娠・出産の時期でもある20代~40代の女性の子宮はがんによる摘出の可能性というリスクに晒され続けます。今できる対策をすぐに始める必要があります。

 

自己採取HPV検査の導入と、がん検診・精密検査を併せたコール・リコール体制の強化であれば、実施主体(事業者・自治体)は今すぐでも開始することができます。ガイドラインが改定されるこの機会に、是非HPV検査及び自己採取HPV検査の導入を検討していただきたいと考えます。

HPV検査についてご相談のある方は本ページ一番下に表示の医療機関までお問い合わせください。


*1内閣参質一九〇第一〇三号(答弁書第一〇三号)
*2 F. Verdoodt et al. / European Journal of Cancer 51 (2015) 2375–2385

 

関連サイトはこちらからご確認ください。

 

 

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