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第41回 これからの病理診断のカタチとは

2020/10/7 掲載

column_201007_image01.jpg 現在の医療において、がんの最終診断の多くは病理医による病理診断によってなされます。そのため、病理医は「今後の治療の方向性」を決定するうえで極めて重要なポジションに存在していると言うことが出来ます。病理診断の結果が出るまではどのような工程があるのでしょうか。

 病理診断までの工程(病理検査)は、

  1. 病変部から組織を採取
  2. 組織を検査室や専門の検査センターに搬送する
  3. 各種染色後に鏡検(顕微鏡で観察し診断すること)する
  4. 病理診断報告書を作成する

の順で進みます。ジェネティックラボでは染色する内容にもよりますが、ご出検から診断報告書のお届けまで概ね1週間の時間を要します。

 このような流れで病理検査を進めていますが、病理検査自体に以下の問題点があります。

  • 鏡検は目を酷使するため疲れやすく、病理医の負担が大きい
  • 病理診断の判断基準が病理医個々の経験、知識、能力によりかなり差がある
  • 病理医が1名のみの施設では、診断に苦慮する標本を他所の病理医に送りコンサルテーションを仰ぐなどするため診断に時間がかかる
  • スライドの保管場所の確保が必要となる上、長期間の保管で染色性が劣化する

 また、病理診断を担う病理医不足が全国的に深刻化しており、日本病理学会でも警笛を鳴らしています。国内の病理医数は現在2,200名程度であり、全人口に対する病理医の割合は0.0016%です。アメリカでは全人口比は0.005%ですので、日本はアメリカと比較すると三分の一しか病理医がいないことになります。加えて、専門医の中でも不足している医師(必要な医師数)は病理医が第一位と言われており、全国の病理医の平均年齢が52.4歳と高齢化してくることも相まって、将来的にどんどん病理医不足が深刻になると予想されています。この少ない病理医数で全病理診断を担い、学生や研修医の教育にも対応するとなると、一人の病理医に対する責任と負担が大きくなってしまうことは疑いようもありません。

 このような状況の中で、病理診断自体も変革の時を迎えようとしています。それは、インターネットの進歩にともない、遠隔で病理診断を行うデジタル病理診断(デジタルパソロジー)です。デジタルパソロジーでは、病理医が不在であっても病理標本を作製できる検査技師がいる病院であれば、専用の画像取り込み装置で病理標本を全て画像化し、病理医が勤務する施設に転送することで病理診断結果を電話やメール等でリアルタイムに確認することが可能です。特に病理医のいない遠隔地の病院で取り入れられ、テレパソロジー(遠隔病理診断)として20年以上も前から行われてきました。

 ジェネティックラボでも病理標本を臨床医と供覧できるバーチャルスライド化が可能です。スライド1枚から対応でき、検体や報告書の輸送等にかかる時間が短縮され、結果TAT(Turn Around Time)が短縮されています。また、デジタルパソロジーは2018年4月から保険適用が可能になりました。カメラやパソコン、5Gなどの通信技術の進化にともない4Kや8Kなど高解像度の機器も市場に出回りつつあり、今後より一層デジタルパソロジー市場が活気づくとも言われています。

 デジタル化の主なメリットは次の通りです。

  • スライドの保管場所が不要 染色性の劣化が無い
  • ブラウザ経由であれば簡単に閲覧出来、高額機器の導入が不要
  • モニタ上で自由に拡大・縮小が可能
  • 組織全体像の中から異常箇所を発見しやすい
  • 大きな画面で閲覧できるため、より多くの標本を診断できる
  • 患者にデジタル画面で説明することができ、臨床医も理解が深まる
  • 電子カルテに画像を追加することで見やすいカルテになる
  • 学会資料等にもデジタル画像が活用できる
  • 患者様への報告が早くなり適切な治療の開始も早めることができる

 2020年7月に病理診断の新しい技術が発表されました。子宮頸がんを対象として近赤外線と人工知能(AI)を応用した病理診断です。この技術は、大阪大学、九州大学、ニコンの研究チームが米がん学会誌に発表しました。内視鏡で近赤外線を組織に照射し、反射した光を解析した組織の立体画像にある細胞の形などから、AIががんを診断し、迅速かつ一定で定量的な判定が可能となる手法です。従来の病理診断では、病変部から組織片を切り取り病理医が診断するため、侵襲性の高い検査と言えます。しかし、この新手法では内視鏡を使用することにはなりますが、従来のように患者様から組織を切り取ることが無く染色する必要も無い上、今までよりも侵襲性の低い検査となります。

 特に妊婦の場合は子宮頸部組織の採取はリスクが高いとされているため、この手法は期待されています。さらに技術革新が進めば、より精度が高く安価な医療機器の開発が進み、遠隔地や発展途上国などでもより良い病理診断を提供できると考えられています。また、手術時に切り取ったがん部における遺伝子検査を組み合わせることで、より確度の高い個別化医療にも応用できるのではないでしょうか。

 子宮頸がんは20歳代の若年層にも広がりをみせつつあります。しかし、働く女性や子育て中の女性などからは、「通院しづらい」、「何度も検査するのが面倒」と言った声もあるため、こういった技術革新による検査品質の向上が多くの命を救い、新しい命が誕生する一助となっています。また、不足する病理医対策として病理医とAIとのシナジー効果でより早く正確な病理検査が誕生することを願っています。

 なお、当社では過去に子宮頸がんや原因となるウイルス(HPV)にスポットを当てたコラムや記事を複数公開していますので是非ご参考になさってください。

1. (コラム) 第2回 HPV併用検診
2. (コラム) 第23回 ヒトパピローマウィルスって何?
3. (コラム) 第29回 子宮頸がん検診では子宮を守りきれない?
4. (コラム) 第35回 「科学的根拠に基づくがん検診」と「受診率向上」
5. (コラム) 第36回 今なぜ子宮頸がん検診なのか
6. (コラム) 第39回 全自動細胞診標本作製装置のご紹介
7. (記事) HPVってなあに?
8. (記事) HPVタイピング解析

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